共に生き 共に感じ 共に成長する
私は看護学校卒業後、当時の実習病院であった総合病院に就職し、小児科と婦人科、糖尿病教育の混合病棟に配属されました。病棟ナースとして働いていた時代も数々の思い出深いエピソードがありますが、バタバタと忙しい業務の中でとても一人一人の患者さんに向き合う時間が持てなかったことも事実です。日中は入院や検査、処置などに追われ、夜勤は三人体制で常に手一杯。夜勤中に成人側・小児側の両方で急変患者さんが出てしまい、急変対応と夜間業務の全てを一人で行うことも少なくありませんでした。
当時、子宮ガンの末期の患者様で下半身がパンパンにむくみ、患部から膿が流れ出る状態の方がいました。
「最後まで女性でいたい!おむつではなくパンティを履かせて!」と希望を伝えてくれましたが、病棟ナースとして彼女の要望に応えることはできませんでした。もし、彼女の話を聞いていたら、この患者さんとしっかり向き合えていたら、何か違っていたかもしれない。のちにそんな風に思ったことを覚えています。
「ラーメン屋のラーメンが食べたい!」という希望を伝えてくれる子宮ガン末期の患者様もいました。
どうしても要望に応えたくて、周囲には内緒で出前ラーメンをとって彼女にラーメンを食べさせました。
今でもその時の嬉しそうな顔が忘れられません。あとで怒られたことは言うまでもないですが…。
28歳の時に長野県安曇野で訪問看護に出会いました。
訪問看護師として初めての出勤、朝ステーションに行くと「当ステーションにようこそ、これ小西さんのカップだよ」と先輩方がマイカップを用意して迎え入れてくれました。その温かさがすごく嬉しかったこと、今でも鮮明に覚えています。
そのステーションで働き始めてからも、先輩方のプロ意識の高さと腰の低さに感銘を受けました。大先輩なのに、病棟出たての私に「教えて!教えて!」と意見を求めてくれるのです。
先輩方から病院の看護と訪問看護の違いを教わりました。訪問看護の魅力は利用者様の性格やライフスタイル、家族の背景など、一人ひとりに合った質の高いケアができることです。適切なケア・リハビリ計画は利用者様によって異なります。
当時、安曇野で訪問していた利用者様の中に、ご家族がりんご農家をされている方が複数人いらっしゃいました。介護をする家族の方が朝から夕方まで畑に仕事に出てしまうため、頻繁におむつを交換することができません。この方にはトラブルが起きないように、長時間つけていても漏れないおむつの当て方が必要です。当時、私に教えてくれていた先輩は、「このおむつの当て方でナースの質が問われるのよ。」と教えてくれました。ただのおむつと思うかもしれませんが、おむつの当て方でさえ人それぞれなのです。ましてや適切なケア・リハビリ計画が一人ひとり異なることは言うまでもありません。これは、相手と向き合うことで分かってくる部分です。
安曇野時代に担当させていただいた利用者様の中で、脳血管障害後遺症で自宅療養に移った方がいました。「意識が戻らないなら病院にいても仕方がない」というご家族のご意向で、意識がないまま帰ってきたおばあちゃんでした。このおばあちゃんに何ができるかを考えた結果、思いつくことを片っ端からやってみることに決めました。訪問させていただく度に、普段行う清潔行為の他に、運動、マッサージ、歌、アロマなど五感に直接働きかけるケアを丁寧に、話しかけながらしていきました。ご家族にも、「できるだけ話しかけて体に触れてくださいね」と伝え、沢山コミュニケーションをとっていただきました。
すると、おばあちゃんの意識が戻り、最後には椅子に腰をかけて一緒にお茶が飲めるまでに回復したのです。この時、訪問看護の凄さに心が震えました。ご自宅でご家族がもたらす癒しがどれだけのパワーを持っているのか。これは、訪問看護だからこそ感じることのできた喜びの瞬間でした。
看護師の役目は常にヒーラーであること、ライトワーカーであることです。
相手と真摯に向き合い、相手と深く繋がることで癒しを循環させることが看護師として大事な役割の一つだと思っています。
こんな温かいステーションを作りたいという想いで現在のおひさまナースステーションを立ち上げました。「おひさま」という気持ちが温かくなる、また頑張ろうと思えるステーションにしたい」という想いが込められています。
おひさまナースステーションは、これからもスタッフや利用者の皆様と共に、学び合い、笑い合い、そして成長していきます。地域の方々も立ち寄ることができるステーションとして、地域全体に温かいおひさまの光を届けられる存在でありたいと考えています。
代表取締役所長
小西由香